黒澤明『どん底』あらすじとレビュー|役者の演技力とラストシーンが際立つ作品

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この記事では、黒澤明監督の第17作品目の映画『どん底』のあらすじと映画の解説をご紹介します。

1957年に公開された『どん底』。

ラストシーンはリズム感満載、ミュージカル映画とは比べものにならない展開です。

それでは、黒澤明監督の作品を40年間のこよなく愛し続けている筆者が『どん底』のあらすじと映画の解説をご紹介しますね。

『どん底』あらすじ

石垣で周囲を囲まれた長屋は、日が当たらず湿ってどんよりとした場所です。

そこには社会の底辺の人達と言われている、貧困層の人々が住んでいます。

この長屋の住人は、冴えない渡世人や職人、女をたぶらかす泥棒、秘かに夫をあやめようとしている人妻といった、なかなかの個性的な人間ぞろいです。

住人達が日々の貧困生活にもがき苦しみ、その生活からの脱却を試みながらもうまくいかない。

そんなリアルな現実を描いています。

『どん底』解説

『どん底』はゴーリキーの戯曲をモチーフにし、時代劇化した作品です。

タイトル通り、場末の長屋を舞台に、人生のどん底を味わっている住人達が繰り広げる社会の底辺の人々の様子を、切実かつユーモアを交えて描いた作品です。

この作品には、多くの秘めたエピソードがあります。

例えば、登場人物を演じる役者さん達に、舞台となる江戸の長屋暮らしを肌で実感してもらうために、撮影前に古今亭志ん朝さんなどから長屋を舞台にした落語を噺してもらってからリハーサルに入りました。

交わされる会話がリズミカルかつテンポがよいのが特徴で、カメラを複数台用意しての撮影は、舞台となった長屋の風景を如実に表現し、その場の雰囲気が切々と伝わってきます。

この撮影方式はマルチカム方式と呼ばれ、黒澤監督の別作品、『生きものの記録』でも試験的に採用されました。

『どん底』では、この方式が非常に高い撮影効果をもたらし、リハーサルの入念さも加わり、1か月という驚異的な早さでクランクアップしました。

とりわけ、ラストシーンを中心に、ミュージカル映画に負けず劣らずのリズム感がスクリーンからあふれ出しています。

この作品に登場する役者さん達は、喜劇役者が非常に多く、魅力的な演技を繰り広げています。

まず、藤原釜足さん。

役者くずれの役柄ですが、過去に非常に悲しい出来事を経験しています。藤原さんは身体が小さく、オペラのコーラスボーイから役者に転向し、本領を発揮しました。

一座に参加したのは、1930年のことでした。榎本健一(エノケン)さんに誘われたのがきっかけです。

榎本さんが退座された後は、浅草玉木座の主演クラスにのぼりつめました。

次に、渡辺篤さん。

作品では駕籠かき役を熱演されています。

浅草オペラのコーラスボーイの出身である渡辺さんは、役者人生の中で松竹映画に長く出演されていました。

代表作として、日本製本格トーキー映画の第1作である『マダムと女房』で、田中絹江さんの夫役をユーモラスに演じたのが知られています。

他にも、有楽座では古川緑派さんの相手役として舞台に登場し、東宝映画にも出演されています。

そして、三井広次さん。

黒澤監督の作品に頻繁に登場する役者さんですが、大きな役どころで出演したのはこの作品だけです。

狂言回し的な胡散臭い遊び人を、見事に演じ切りました。

三井さんは、松竹映画の与太郎シリーズで注目を浴び、小津安次郎さんの『非常線の女』にキャスティングされたことから一躍時の人となりました。

ラストシーンでは、三井さんの捨てセリフが印象的で、その後拍子木の音が響き映画の展開が暗転します。

最後に、左ト全さん。

この作品では、お遍路役を演じています。

左ト全さんのデビューは、帝国歌劇部で『ブン大将』のコーラスボーイに補欠で選ばれたのがきっかけです。

映画デビューは今井正さんの『女の顔』でした。当時55歳。以降、茶目っ気のある老人役で様々な映画に出演します

役者が皆芸達者にて、低予算で早撮り可能だった

数多くの黒澤監督作品の中で、この作品は三船敏郎さんが出演しているのに、志村喬さんが不在という作品です。

そして、黒澤映画では非常に稀ですが、低予算かつ早撮りで完成した作品です。

一見、どうにも救いようのない、いわゆる社会の最底辺の人達の生活を描いているのですが、見ていて切なくも苦しくもならないのがこの映画の特徴です。

もちろん、タイトル通りに『どん底』ではありますが、それをあえて楽しんでいるような明るさに救われる映画です。

映画の中では、三船敏郎さんと香川京子さんと山田五十鈴さんの間で、男女の微妙な三角関係が登場します。

しかし、『白痴』のような苦しさや切なさはありません。

人間ってアホだなと思えてしまい、苦しいよりはむしろほほえましくもなってしまいます。

どうしてこう思えてしまうのかと考えると、やはり黒澤監督の演出方法のよさと、芸達者の役者さん達の集まりの結果なのではないでしょうか。

『どん底』は、出演されている役者さんたちが繰り広げる真の演技を楽しむことができます。

個人的には、演技に関して、黒澤作品の中でも一二を争う秀逸な作品だと思います。

特にラストシーンは、圧巻ものです。

今まで世に出た映画作品の中で、いちばん良い終わり方だと思います。

『どん底』まとめ

黒澤明監督の第17作品目の映画『どん底』のあらすじと映画の解説をご紹介しました。

黒澤監督が、低予算かつ早撮りで完成させた『どん底』。

しかし役者の演技力はピカイチです。

圧巻のラストシーも必見ですよ!!

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