黒澤明『蜘蛛巣城』あらすじとレビュー|巨匠・黒澤監督が初めて挑戦した芸術作品

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この記事では、黒澤明監督の第16作品目の映画『蜘蛛巣城』のあらすじと映画の解説をご紹介します。

1957年に公開された『蜘蛛巣城』。

『蜘蛛巣城』は巨匠である黒澤明さんが初めて挑戦した芸術作品としての映画なんです。

それでは、黒澤明監督の作品を40年間のこよなく愛し続けている筆者が『蜘蛛巣城』のあらすじと映画の解説をご紹介しますね。

『蜘蛛巣城』あらすじ

時は波乱うずまく戦国時代の日本。あるところに蜘蛛巣城という奇妙な名前の城がありました。

その城は配下の武士による裏切りによって窮地に陥りますが、主人公の鷲津武時と三木義明が見事に城を救います。

すると城主は2人をたたえ、ぜひ褒美を与えたいとの事で彼らを城に招待しました。

しかし2人の主人公は城に向かう道中の森で迷子になってしまいます。

そしてそこで奇妙な老婆に出会った彼らは老婆からある事を予言されます。

それは、「2人はやがて北蜘蛛巣城と蜘蛛巣城の城主になる」といったものであったのです。

『蜘蛛巣城』解説

この『蜘蛛巣城』は、シェイクスピアのあの有名な戯曲『マクベス』が下敷きになっています。

シェイクスピアと黒澤明さん、イングランドと日本の天才作家が時代を超えて交じり合ったというとても贅沢な作品になっています。

古典的なシェイクスピアの作品に対する黒沢明さんなりのリスペクトなのか、解釈なのか。

今作では「能」の表現や演出を全面的に取り入れるという斬新な撮影技法がなされています。

役者たちには事前に能を鑑賞させてイメージをつけさせたといいます。

そして撮影では役者の顔をアップで撮るカットなどは避け、能のように全身で演技を表現させそれをカメラに収めることにこだわりました。

もともとは戯曲として舞台で演じられたこの原作を、黒澤明さんは映画のスクリーンを舞台にみたてて上演しようとしたのかも知れませんね。

ちなみに撮影時の有名なエピソードとして主人公の鷲津武時を演じた三船敏郎さんが、矢を雨のように射られるシーンでトリックではなく実際に矢を射られた事から黒澤明さんに大激怒し、のちに居ても立っても居られなくなって散弾銃を持って黒澤明さんの家に押しかけたといったものがあります。

しかし実際は矢にはワイヤーが通されており、あらかじめ決まったところに飛ぶことになっていたようで、どう転んでも三船敏郎さんに当たる可能性はなかったそうです。

今では伝説のお2人なだけに、未だに語り継がれるエピソードです。

『蜘蛛巣城』感想

やはり長い歴史上演じ続けられる戯曲を原作にしているだけあって、ストーリーの面白さは間違いありません。

しかもその名作の舞台をガラッと戦国時代の日本に移しかえ、映画という舞台で大胆にアレンジし新しい名作を生み出したのはさすがの一言に尽きます。

そして作中で生み出された革新的な撮影技法や演出は、のちの日本映画に多大な影響を及ぼしたと言われています。

例えば、冒頭に霧の中から城が現れるシーンなんかは、どこかで見覚えがありませんか?

そうです、あの『ハウルの動く城』の冒頭で城が現れるあのシーンはこのシーンにインスパイアされたという説が濃厚です。

そうして確かな爪跡を残した本作は、間違いなく日本の映画史、世界の映画史に残る名作です。

実際に世界の著名人にもこの作品のファンは多く、この作品の大ファンの1人があの有名映画監督であるスティーブンスピルバーグさんです。

彼は本作ではじめて黒澤明さんが監督した作品と出会い、悪人も善人もしっかり描ききる人間賛歌をテーマとして貫いた黒澤明さんの作風に感動したとインタビューで語っています。

そして今作が従来の黒澤明さんの作品と大きく違う点は、エンターテイメント色よりも原作の「悲劇」である部分をあくまで尊重した作りになっているところにあります。

能を取り入れた新しい表現方法、そして悲劇の古典演劇を下敷きにした挑戦的なシナリオの組み合わせはエンターテイメントの枠を超えて間違いなく1つの芸術作品になっています。

『蜘蛛巣城』まとめ

黒澤明監督の第16作品目の映画『蜘蛛巣城』のあらすじと映画の解説をご紹介しました。

巨匠である黒澤明さんが初めて挑戦した芸術作品としての映画『蜘蛛巣城』。

そこに注目して観ると、この映画をより深く味わって楽しむことができるはずです。

頭をからっぽにして楽しめるに足りて余りある従来のエンターテイメント要素、そしてそれを大きく上回って私たちを芸術の世界に誘ってくれる芸術的な演出技法を心ゆくまで堪能してください。

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