黒澤明『酔いどれ天使』あらすじとレビュー|超イケメンの三船敏郎さんの鮮烈デビュー作品

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この記事では、黒澤明監督の第6作品目の映画『酔いどれ天使』のあらすじと映画の解説をご紹介します。

1948年に公開された『酔いどれ天使』。

黒澤明監督と三船敏郎さんがタッグを組んだ作品です。

それでは、黒澤明監督の作品を40年間のこよなく愛し続けている筆者が『酔いどれ天使』のあらすじと映画の解説をご紹介しますね。

『酔いどれ天使』あらすじ

闇市の近くで開業する貧乏医師の眞田医師。

飲んだくれで、口は悪くシャイな性格ではあるが、正義感は人一倍。

ある日、ピストルの弾を受けた闇市のボス、松永が眞田医師の元に診察に訪れる。

診察の際、眞田医師は松永に結核の疑いがあることを察し、治療を受けるよう勧めるが、松永は眞田医師の声に全く耳を貸さない。

眞田医師の前では強がる松永ではあったが、松永の兄貴分的存在の岡田が出所してくると、それまでの羽振りが落ちていく。

同時に松永の身体を病魔は容赦なく蝕んでいく。

強がる松永ではあったが、心のどこかで自分と似た部分を見つけている眞田医師は、松永に療養に専念するようしつこく迫る…。

『酔いどれ天使』解説

この作品は、黒澤明監督と三船敏郎さんがタッグを組んだ第1作で、後にこの2人は黄金コンビと呼ばれていきます。

内容は、肺結核になった若い闇市のボスと、正義感あふれる貧乏医師とのやり取りを忠実に描いたものになっています。

闇市のボス役を演じるのは、三船敏郎さん。貧乏医師を演じるのは、志村喬さん。

この2人は、いつのまにか心のどこかで師弟関係を築き上げていくのです。

ストーリーの展開上、この作品の主人公は貧乏医師役の志村喬さんなのですが、準主役の立場であるボス役の三船敏郎さんが主役に映ってしまう作品となっており、三船敏郎という名前を世に知らしめた作品となりました。

この作品を契機に、黒澤監督は以降の黒澤作品に三船敏郎さんを主役としてキャスティングしていくのです。

当初、黒澤監督が描いていた思いは、三船敏郎さん演じる若いヤクザの無意味な生き方から、世間にヤクザ否定を訴えることでした。

しかし、三船敏郎さんの役作りが勝り、その個性的な演技から逆にヤクザを美徳に思えてしまう観客が多かったという、実に想定外の結果で終わってしまいました。

この作品が上映された当時は、世間は決して穏やかではありませんでした。

戦争帰りの若者は、社会復帰できず自暴自棄に陥る人が多かったのです。

黒澤監督はそれに対するアンチテーゼとしてこの作品を世に送り出したのですが、三船敏郎さんの挑発的かつ狂暴的な存在感は想像以上で、黒澤監督が意図していたものとは正反対の、暴力とニヒリズムの魅力が作品のいたるところから強烈に表現される結果となり、賛美されてしまったのです。

舞台となる闇市のセットは、実際の闇市そのものに仕上がりました。

作品中では、三船が悪夢にうなされるシーンがあります。そのシーンはスローモーションで撮影されています。当時の撮影手法としては斬新なものでした。

この撮影方法は、後の「七人の侍」でも効果的に使用されました。

斬新な撮影方法は、世界の多くの映画監督に多大な影響を与えたのです。

『酔いどれ天使』感想

結核にり患したヤクザ、松永と、松永を助けたいと奮闘する医師、眞田。

この作品には、テーマが2つあるように思えます。

1つは、ヤクザの存在という反社会的精力的な意味合いです。

根は純粋な松永が信じたヤクザの仁義は、実は意味のないものであって、松永は落ち目の生活を余儀なくされます。

もう1つのテーマは、理性です。

松永は、理性と欲望の間で葛藤します。そんな中、出所した岡田の登場が、彼から理性を奪います。

後に理性の大切さに気が付いた松永は、まじめに病気と向き合うのです。

この2つのテーマを、黒澤監督は実に丁寧に演出していきます。

例えば、沼に散ったバラが水面から沈んでいくシーンや、飲み屋の女が女学生と眞田医師に向ける視線などでは、このテーマを丁寧かつ完璧に演出しているのが伝わってきます。

その演出を、演じる俳優陣達が際立てています。

主人公眞田医師を演じた志村喬さんの反骨心あふれる演技は素晴らしかったです。

それと同時に、眼光鋭い演技を見せつけ、その存在感を十二分に発揮した三船敏郎さんの存在も素晴らしいものでした。

あくまでも、主役は志村喬さんが演じる酔っ払いの町医者ですが、販売されているDVDやブルーレイのカバーは三船敏郎さんが演じる松永です。

日本のモーガン・フリーマンと言われている志村喬さんの演技力も光りますが、三船敏郎さんが予想以上にカッコよすぎて、現代で言えばイケメンの部類に入るのです。

思えば、『生きる』や『七人の侍』で見せてくれた迫力のある演技とはまったく違う、口の悪いヤクザ顔負けの役どころなのですが、見ていて違和感が全くないのです。

正直言いますと、志村喬さんには、こういう乱暴な中でも情に厚い男の役をもっと演じて欲しかったです。

私個人的には、この作品の眞田医師は、志村喬さん史上最高の演技だと思っています。

『酔いどれ天使』まとめ

黒澤明監督の第6作品目の映画『酔いどれ天使』のあらすじと映画の解説をご紹介しました。

闇市の近くで開業する貧乏医師と闇市を支配する若いボスのを描いた『酔いどれ天使』。

この映画の価値は、なんと言っても黒澤明監督と三船敏郎さんがタッグを組んだ初めての作品であることです。

この作品から世界の黒澤明監督の道程が始まったと言っても過言ではないかも知れませんよ。

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